イタリア人気質

河辺　徹也（昭和６１年卒）

 

三田キャムとは父親（昭和３１年卒業）がOBであり、三田の部室を訪ねたのがご縁です。今回は会報へ拙文をご掲載いただけると伺い感謝する次第です。さて、今回は３年弱のイタリアでの生活の中で彼らから学んだことを中心に、自分自身への反省と戒めをご紹介いたします。

イタリアへの駐在が決まった時、周囲からは「羨ましい限り」だ、「イタリアに毒されないように！？」などたくさんの「はなむけの言葉」をいただきました。確かに小職の中でもフェラーリ、ファッション、食文化、そして怠け者などの言葉に代表されるどちらかと言うと「お気楽」を拾い集めてチンしてポン！と出てきたものがイタリアのイメージでした。３年経った今でも「？」と聞かれると大きく首を横に振って否定することは出来ませんが、イタリア人の中で働く小職としては友人や同僚に対して「イタリアってそれだけじゃないんだよ、学ぶことはたくさんあるよ。例えば」と以下のことをよく話します。

イタリア人、確かに身長体重ともに日本人と変わらず目鼻立ちは濃いのですが中北欧の人達の中に入ると小柄で埋まってしまう印象があります。彼らはローマ帝国以来色々な人種が混じっているためスタイル抜群です。たちが悪いのはその格好良さを誰よりも自分たちが一番良く知っていることです。

３月の復活祭が終わる頃、弊社のレストランメニューは油断ち、肉断ち、野菜中心のダイエットメニューとなります。男女とも夏に極限まで露出した水着を着て毎週末海岸で日焼けするための準備、ファッション誌の表紙さながらのスタイル作りに４ヶ月間精出しします。洋服だってそうです。身長１７６ｃｍの小職の場合、洋服屋の店員は小職を一瞥して、日本で馴染みのサイズより１サイズ小さな洋服を着せます。鏡の前で胴回りがどうしようもなくパンパンに張った自分の姿を見て、おそるおそる「ピウグランデ？」と１サイズ大き目を要求すると店員は聞こえないふり？さっさとお直しに入ります。彼らは美しく見せるために自分を絞るのです。

「そんなことは誰でも知っている！」これはイタリアイメージそのものかもしれません。以下が小職のショックでした。実はこの人生他人から見て格好良くなければいけない！と言う精神が、外見に留まらず仕事を始め生活全般に亘って活かされているのです。

小職の勤める会社はローマに本社があります。従業員200名のほぼ全員がローマ出身です。ミラノなど北イタリアの人間からは南の人間は働かない！俺達北の人間が南の人間を食わせている。南さえなければ今頃イタリアの発展は想像出来ないほど！小職からは「勝手を言ってろ！」ってなものですが、これもイタリアを語る際に忘れてはいけない特徴のひとつ「地方分権」の表れです。

社員は朝から晩まで蟻のようによく働きます。朝は９時から夕方８時を過ぎても大部分は打ち合わせだプレゼンの準備だと残っており、時には夜中の１時、２時まで議論を交わすことになります。アルコールが入って「何故？」と小職、「一生懸命働いている姿って他人が見て格好良いんだよね。」とアンドレア、、、分かりやすい！

そんな彼らも週末や、年３回あるバカンスの時期は徹底的に羽を伸ばします。中堅社員クラス以上なら殆どの人がサマーハウスを親兄弟と共同所有（相続税も現政権で０％になりました）し、子供達の学校が終わると家族は海や山の家に引っ越します。残された社員はそこから通勤することになりますが片道精々１時間以内。家のローンに追われ通勤ラッシュに揉まれる日本人と異なり、不動産価格も昨今の高騰を反映してもローマから車で１時間以内の場所（とても田舎ですが）で年収の１．５倍程度とか！週末になるとサマーハウス近くのビーチや丘陵地帯で日永パン、チーズ、１本100円程度のペットボトル売りワイン（結構いける）の入ったバスケット片手に水や犬に戯れ、本を顔の上に広げながらうたた寝する家族連れの多いこと。

激論を交わし夜中まで働いた彼らの心を癒す自然（勿論ただ！）が自宅の扉を開けてから１時間以内の目と鼻の先に広がっている彼らには、我々日本人が年1回の盆休みに何ヶ月も前からホテルやレストランを予約して、渋滞に揉まれながら何時間もかけて目的地へ到着、旅先でも渋滞と人工のテーマパークやらで待ち時間何時間に何万円も消費、、、消費天国（若しかしたら地獄？）そんなことは想像も出来ないのです。「何故？」「徹底的に働いた俺達が徹底的に羽を伸ばすのって他人が見て格好良いんだよね。」ふ〜ん！

「他人から見て格好良い生活を求めるイタリア人の生活」と小職が日本で答えを見つけられなかった「クオリティ・オブ・ライフ」が突然小職の頭で繋がりました。心の豊かさは決してお金で買うものじゃなかったんですね。