追悼文：　　　

夏目　敏夫さん

藤井　明子　（昭和38年卒）

猛暑の来る前のことだった。夏目さんから電話を頂いたのは。何十年とお暮らしだった石神井台のお住居からご子息の近くの町田市に転居されたとか。自称90歳でいらしたのに一大決心であったと思う。「家内が骨折したので息子と相談して生活を立て直しましたよ。」「好奇心旺盛でいらしたからコレクション、資料、膨大な書籍をどうされましたか？」　「寄贈したり、興味のある方に差し上げたり。」「よくまあ思い切りよく」と感心した。その会話からほどなく入院　そしてまもなくあの世に旅立たれてしまった。いつも早々と行動される方だったので浮世をはなれるのもなんと手際の良すぎること。

昭和27年　卒業以来　変わらずに三田キャムパスの優秀会員、総会出席、会費、寄付金、寄稿、スピーチ等　どれをとっても三田キャムパスへの貢献は大きかった。世界各地への旅　それもヨーロッパはもとよりロシア　アメリカ　中近東　北アフリカ等どこの地を踏んでも食い入るような目と熱意をこめて見て感じて聞いて自分のものにしてこられた。

　多趣味で専門書はもとより、池波正太郎の鬼平犯科帳、梅安、剣客商売の愛読者で全巻を読破されたとか。私も池波フアン（内外の推理小説は最も好むところ）池波作品の話がはずんだものにと残念におもう。数年前に蜂窩織炎と関節炎を患い闘病生活ののち、厳しいリハビリに励んで短い期間で回復されたそうだ。

御高齢の身　大病後　入院中の体験から介護医療の行末を見据えて　筋力補完装置、　ロボット化　外国人医療労働者の支援を提案していらした。小柄ながらエネルギーにあふれ　帽子を愛用して闊歩し大きな声でお話していらした姿が目にうかぶ。

転居後　間もなくの御訃報は、にわかには信じられなかった。反面　いつもの一日のように過ごし　ある日　突然　あの世に移られとは羨ましい御最後でしたね。